相馬家の玄関先には、ガムテープが常備してある。
特に春と秋は必需品といっていい。
朝早く、まずは一家の大黒柱(?)、母が出ていく。
ローヒールの靴を履いたあと、ガムテープを手にして全身をぺったぺったぺった。
家族が次々目を覚まして朝食を済ませ、学校へ。
「行って来まーす」
菊花もガムテープを手に取り、くるりと輪にしてぺったぺったぺった。
同じ挨拶文を元気よくいって優駿が出ていき、秋華が出ていき、最後に桜花がでていくときまで、ガムテープはけなげに働いている。
「……行ってらっしゃい」
講義が遅いときの皐月は、桜花が出ていったあと玄関の鍵を閉めた。
そしてガムテープの残りを確認する。
「換毛期に比べたら、ましね」
ガムテープはまだまだたっぷり残っている。
皐月の足下には、縞模様の猫。
「にゃあん?」
「こら、オークス。お前のおかげで、我が家には猫の毛がついていない服なんて一枚もないんだからね」
みゃおん。
分かっているのかいないのか、猫は大きく股を開いて毛繕いをしはじめた。
玄関先のガムテープはエチケットブラシよりも強力なので、相馬家の面々には重宝がられている。