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    ブラックホールと、秋華さんの悩み

    • 2004.09.20 Monday
    • 15:01
     相馬秋華、中学二年生。
     夜も遅い時間、秋華の部屋にはまだ明かりがついていた。

    「あーもー、一次関数、わけ分かんないッ!」
     ぽいっとシャーペンを投げ捨てた。机の上で一回大きくバウンドして落ちる。宿題のプリントは半分しか埋まっていなかった。
    「えーと、切片が縦軸で、横軸が傾きで……xとyだけでも面倒なところに定数aだ? 知らないよ、そんなの」
     算数の頃からあまり得意な科目ではなかったが、決定的に嫌いになったのは連立方程式からだ。分数がでてくる、負の数がでてくる、おまけに出題傾向は文章題ときた。最低最悪の三拍子だ。
     一学期の期末テストでは連立方程式がメイン。案の定ぼろぼろだった。無理矢理、夏期講習も受けさせられた。この分だと来月の中間テストは一次関数のグラフやら計算やらがメインになるだろう。考えるだに恐ろしい。
    「……気分転換しよ」
     机の上を離れて、なにか飲み物をとってくるため部屋を後にした。

     二階の廊下は普段、明かりをつけていない。
     突き当たりの窓に、兄・優駿と姉・菊花の姿があった。一緒に置いてあるのは白い天体望遠鏡。
    「何してんの?」
     姉・菊花が振り返る。
    「アンドロメダ銀河を探しているのよ。秋はね、あまり目立った星座がないから銀河系とか観測するのに向いているの」
     といったら兄・優駿が反論した。
    「こらこら、カシオペアがあるだろが」
    「あら、ほんと。アンドロメダのお母様がいたわね」
    「北斗七星が目立たない位置に沈んでから、空を指す指標はこれなんだからな」
     全然分からない。秋華は、そうしようと思ったわけではないのにふくれっ面になった。
     元々この兄と姉は理系分野が得意なところがあって、二人で昆虫を追い回したり星を見上げたりすることが多かった。
     虫嫌いの上の姉二人と自分は、似たもの同士なのか三人とも数学や理科が苦手である。
     会話に入れないもどかしさか、つい、嫌味めいたことを口走ってしまう。
    「ふーん。受験生のくせに、のんきなの。落ちてもしらないから」
    「う゛」
     兄はあきらかに傷ついた顔になり、姉は柳眉を寄せる。
     姉が何か言いかけたが、それより先に兄が会話の矛先をかわした。
    「で、秋華は遅くまで何をしてたんだ?」

     数学に対して不平不満をぶちまけてやろうと思ったが、やめた。
     得意な人間に何をいっても理解してもらえない。同じく苦手な人間にぶちまけて、「そうよね〜、全然分からないよね〜」と同調してもらいたい。
     そう思ったから、秋華はさらに話をそらした。
    「別にィ? それより、夜空を見上げて面白い?」
     もちろん返ってきた答えは「面白いよ」だった。どういう答えが返ってくるのか分かっていて尋ねるのもコミュニケーションのひとつ。

    「秋華は数学が苦手だけどさ、たとえばルートなんか面白いよ。『ひとよひとよにひとみごろ』とかやったろ?」
     聞いたことはある。兄はさらに楽しそうに問いを重ねてきた。
    「ブラックホールって知ってるか?」
    「馬鹿にしないでよ。それくらい知ってるわ」
     光を放たない、夜空にぽっかり開いた穴。でも本当は、そこには光さえ飛び出してこないような重力を持った星がある。
    「そうそう。星が死ぬと中心に圧力がうんとかかって、原子レベルで圧縮されちゃうんだな。『天体の表面からの脱出速度は、天体の質量が一定ならば天体の半径の平方根に反比例する』って法則があってさ。この公式にあてはめて、光の速さでも脱出できない速度が必要になるってことになるとブラックホールができあがるわけだ」
    「データさえあれば中学生でも数値を求めることはできるんじゃないかしら。もっともそうなると完全に理系でないと厳しいかもしれないけど」
     ……ちんぷんかんぷんだ。
     お星様は、黙って見上げてるだけなら文系も理系も関係ない。
     だけど、お星様を読み解くのに数学は必須科目。物理学も必要。
     秋華には分からない世界。
     兄のいう「ひとよひとよにひとみごろ」がそんなところに役立っているとは、中学数学もなかなか馬鹿にできないということか。

     と、そこで姉が両手をぱんと音を立てて合わせた。
    「兄さん、忘れてたわ。平方根(ルート)は中学三年で習うのよ。まだ秋華ちゃんは習ってないわ」
    「あ」
     兄の手が止まった。
    「そういや因数分解って中3だっけ? あれで数学が面白くなったようなもんなんだけどなー」
    「パズルみたいだものね。因数分解は公式さえ暗記していれば楽勝なんだけれど、割り切れない数字になってくるとルートが必須だったわね」
    「解の公式自体、分数とかプラスマイナスとかルートとか二乗、盛りだくさんだもんな〜」
     その一連の会話に、秋華は固まった。
     現在の苦手要素そのまんまである。
     今の数学でも持て余しているというのに、あと一年したらそんなややこしいものまで覚えなければならないというのか!!

    「私、齢14にして人生に絶望していい!?」
     返ってきた姉と兄の台詞は無情。
    「秋華ちゃん。まだ絶望するのは早いわ。せめて高校受験を経験してからいいなさい」
    「甘い。大学入試をかじってからいってくれ」
     相馬秋華、中学二年生。
     まだまだ数学との縁は切れないお年頃。
    「いやだーーーッ!」

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