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    桜花さんの夜更かしの時間

    • 2004.08.20 Friday
    • 14:59
     今日は、相馬家5人きょうだいのうち長男が友人のところに勉強合宿に行っていて留守。次女は作品提出が迫っていて大学に泊まりこみである。
     それ以外の娘たちと母はのんびりと居間に集合………いや、ビデオデッキの使用権を争っていた。
     長女・桜花がいった。
    「今日は『翡翠とゆかいな仲間たち』を録画するの!」
     深夜帯にやっているアニメ番組である。
     しかし四女・秋華も黙ってはいない。
    「ジェシカ・マーロウの新作プロモを観るのよっ」
     最近秋華がはまっている歌手らしい。桜花は洋楽を一切聴かないタイプなのでよく分からない。
    「プロモーションビデオならこんな夜中に見なくても、別の日があるでしょう」
    「明日、学校に行く用事があるからそのとき友達に貸すって約束したんだもの」
    「……っ、それまでに観ておきなさい、夏休みなんだから!」
    「昨日発売だったのよ、昨日も今日も色々あって忙しかったんだから!」
     喧々囂々(けんけんごうごう)二人がわめいている間、残る二人は止めもしなかった。
    「母さん、お茶は?」
    「もらおうかしら」
     大家族では、仲裁のつもりで会話に加わったが最後、気が付くと当事者になってさらにうるさくなることを経験として知っているのだ。
    「社会人の娘と中学生の娘が同レベルでケンカできるんだもの。仲のいい姉妹よねぇ」
    「そうね、母さん」
     彼女たちはそろって茶を飲んだ。のんきな二人と対照的に、桜花と秋華はどこまでも平行線をたどった。相馬家にテレビは居間以外にもあるが、ビデオデッキは一台しかない。桜花はずっと深夜アニメを録画してきたので今更シリーズに穴を開けたくないし、秋華は秋華で明日友人に貸すというせっぱつまった理由がある。
     このまま言い争いをしていても埒(らち)があかないので、仕方なくくじ引きという手段を執った。
    「きくちゃん、出来るだけさっさと終わるババ抜き作って!」
     結局、長女と四女に挟まれた菊花は巻き込まれる運命にある。
     クールな妹は、トランプを手にするとジョーカーとそれ以外を引き抜いた。
    「はい、どうぞ」
     カードの背を向けて差し出される。
     一発勝負。ババを引いたほうが負け。
    「……菊花ちゃん、やっぱり鬼よね」
    「……これがきくちゃんだから〜」
     たしかにこれはさっさと終わるババ抜きであるが、駆け引きをする隙もない。桜花と秋華は互いに顔を見合わせた。
     負けられない。お互いの趣味と意地のために。
     桜花は右、秋華は左のカードを選ぶ。
    「それじゃあ、一斉にどうぞ」
     菊花の一言で二人は同時にカードを引いた。
    「う゛っ……!」
    「やったあ、秋華ちゃんの勝ちッ☆」
     ばんざいのポーズで秋華はハートのクィーンを高々と掲げる。
     桜花は半笑いのジョーカーを握りしめたまま、ぐらりと体が傾いでいくのを感じた。

     公平に考えて、ビデオはビデオデッキでしか再生できないが、深夜に放送しているアニメならビデオに録れなくてもリアルタイムで見ることはできる。くじ引きの神様もなかなか粋な計らいをしたといえよう。
     その夜、桜花は明日も仕事というのにアニメ放送時間まで起きていることにした。
    「やだ、もう……このアニメ、2時25分からあるのにぃ〜」
     新聞を見ながら放送開始時刻と終了時刻を確認する。三十分番組といえど、この時間は無情だった。
     午前1時を越えたあたりまでは何とか持ちこたえたが、午前2時を回ったころには桜花のまぶたは重くなってくる。
     暇で暇で、深夜に袋菓子をぽりぽりかじる。秋華がこだわっていた例のプロモーションビデオはまだ回っているようで、高音域の歌声がかすかに聞こえていた。
    「だ、だめ、ねむい……」
     リモコンをでたらめに押してザッピング。通信販売番組では、司会者がハイテンションな声でなにやら怪しげな商品を繰り返しPRしている。真っ黒に日焼けした白人男性がやたら白い歯をキラリと輝かせて「サイコーだね!」とか喋らされているVTRが嘘臭く見えるのはなぜだろう。
    「……こんなのひっかかるかっての」
     桜花は憎まれ口をたたいた。
     結局、その日はアニメの後半でうたた寝してしまったらしく気が付くとエンディングテーマが流れていた。後日、録画していそうな友人にダビングしてもらおうと涙を呑む。
     翌日はかろうじて遅刻せずにすんだ。

       *

     それからしばらくして。
    「桜花姉さん、小包が届いてるわよ」
     帰宅するなり菊花がいった。どこどこから、と聞き慣れない会社の名前を告げられる。
    「荷物……はて?」
     心当たりはない。
     なぜか菊花は、冷ややかな目で桜花を見つめてくる
    「きくちゃん?」
    「……桜花姉さん……深夜の通販番組で、使いもしない納戸のこやしを買ったでしょう」
     いわれて、桜花ははっと思い当たった。
     いつぞや夜更かししていたとき、くだらないと思いつつも一瞬「やっぱり便利かも?」と魔が差して、ついつい買ってしまったアレだ。
    「あ、あはははは」
    「いつも家計が苦しいから無駄遣いするなって私たちにいうくせに。お願いだから、使わないものを買うのはやめてちょうだい。ああいうのは深夜、購買層の思考力や判断力が弱まってる時間帯を狙って番組作ってるんだから」
     ポリシーを持って物を購入する菊花には「ついつい」の心理など分かってもらえないらしい。
     妹に軽くつるし上げをくらいながら、もう二度と深夜の通販番組なんか見るもんか、と桜花は固く誓った。
     さて、この誓い、いつまで守られることだろう?

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