「相馬さんちのお嬢様's+1」へようこそ。
この物語は、とある一家に関わる人々の日常コメディです。タイトルにあるとおり『お嬢様』は複数形。ただ一人『お嬢様』の枠組みからはずれた少年にはしっかり苦労していただきましょう。それでは大まかな家族紹介からおつきあいください。
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今は昔。
桜の花びらが舞い散る頃、とある夫婦に初めての赤ん坊が生まれた。女の子だった。
父はいった。
「『おうか』だ。名前は桜花にしよう!」
母はいった。
「普通に『さくら』のほうが可愛くない?」
「いや、やっぱり名前に『花』を入れたいんだよ。桜花で決まりだ!」
このとき、母はまだ自分の夫の趣味を知らなかった。
一年後。
ソメイヨシノが葉桜となり八重桜が全盛期に差し掛かった頃、また家族が一人増えた。今度も女の子だった。
父はいった。
「『さつき』だ。名前は皐月にしよう!」
母はいった。
「気が早いのね。まだ4月なのよ? 皐月なら来月でしょう?」
「いや、さすがに卯月とは名付けにくいだろう。皐月で決まりだ!」
多少の引っかかりを覚えながら、このときも、まだ母は父のネーミングセンスに気づいていなかった。
それから二人の女の子はすくすく育ち、忘れた頃に母はまた身ごもった。
「あなた、今度は男の子ですって」
父は飛びあがらんほどに大喜び。生まれてもいないうちに名前を叫んだ。
「『ゆうしゅん』だ! 男の子はどの季節に生まれても絶対にダービー(東京優駿)にすると決めていたんだ!」
このとき、母は初めて我が子につけられた名前の規則性に気が付いた。
4月、桜花賞の翌週に皐月賞があることを。
「あなた! せめて『まさはや』とかにならないの!?」
「優駿を『まさはや』と読ませるのは難しいよ。やっぱり『ゆうしゅん』で決まりだ!」
母の主張もむなしく、梅雨時に生まれた男の子は無事「優駿」と名付けられた。
これで打ち止めかと思いきや、翌年秋、また女の子に恵まれる。
病院に駆け込んだ父は頬を真っ赤に紅潮させて、開口一番。
「万馬券を当てたんだ!」
母は怒りを通り越してあきれ過えった。
「この日を記念しよう。『きっか』だ。『きくか』じゃないぞ、名前は菊花に決まりだ!」
おりしもその日は、その年の菊花賞当日だったという。
とうとう母はぶちぎれた。
母は離婚を決意。弁護士を通じて喧々囂々(けんけんごうごう)のやりとりが数年間続き、その間になぜか四女が誕生する。
「『しゅうか』だ。今度、秋華賞というのが出来るんだ。名前のストックもつきてきた頃だし、ちょうどいい!」
「……もう御勝手に」
懲りていない父を尻目に、母は五人の子供を抱えてやっと離婚手続きを終えた。
*
僕の名は相馬優駿。
二人の姉と二人の妹に挟まれて、肩身の狭い高校生やってます。